【院長コラム】 忘れてはいけない大切な想い |
サラリーマンの息子として育った私が中学生の時に、医師になろうと決心したのは何故だったのかを考えてみると、大橋先生の笑顔が大きく心に浮かんできます。 大橋先生は、私が子供の頃たいへんお世話になった小児科の先生です。 父の仕事の関係で小学3年生まで岐阜市に住んでいましたが、体の弱かった私はよく熱を出して先生に診ていただいていました。 大橋医院の待合室はいつも小さい患者と付き添いの親たちでいっぱいでした。 病気の子供が泣きじゃくり、その兄弟たちが走り回る、喧噪ともいえる毎日のなかで先生は、どの子にもどの親にも優しく声をかけられて診療にあたっておられたのです。
ひとりっ子だった私は、いつもクマのぬいぐるみを抱えていました。 ある日、高熱を出して母に抱かれて診察室に入った私に先生はニッコリ笑って「陽ちゃん、今日はクマちゃんも注射をするんだよ。 クマちゃんが泣かなかったら、陽ちゃんも泣かないね。」と言われ、クマの腕に注射をされました。 私はクマが泣き出すのではないかと一生懸命見張っていましたが、クマは泣きませんでした。 クマには負けたくない私は初めて泣かないで注射を受けることが出来ました。 それからの先生はずっとクマにも注射を打ってくださったのです。
こういう私の記憶は、母から後に聞いたことと交じり合っているとは思いますが、先生の子供の気持ちを大切にされた優しさは幼い頃の思い出として忘れることはありません。
月日が流れ、医師国家試験に合格した春に私は大橋医院を訪ねました。 先生に憧れて医師の道を選びましたと御報告したかったのと、なにかアドバイスをいただければとの気持ちからでした。 しかし様変わりした町並みのなかに大橋医院は見つかりませんでした。 私は以前に医院があったと思われる場所に立って、必ず先生のような医師になりますと誓いました。 そして先生のあの診療の日々のお姿こそが、この上もないアドバイスであったことに気づかせていただいたのです。
現在、泌尿器科の医師としての道を歩んでいる私ですが、大橋先生は今も私の心の中に生きておられ『初心を忘れるな』と励まして下さいます。
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